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串田和美とJ.M. シングの喜劇
~『The Playboy of the Western World』~
20 世紀初頭、アイルランド文芸復興運動の中で生まれたJ.M. シングの喜劇は、ユーモアと皮肉を織り交ぜながら、アイルランド西部の小さな村に暮らす農民たちを生き生きと描き出す。
都会的な英国演劇とは異なる独特のエネルギーに満ちたこの名作に、串田は長年魅了され、1975 年の出演を皮切りに、77年、81年、09年、21年と、4 度にわたり演出を手掛けてきた。
2025 年、ふたたびこの戯曲に新たな脚色を施し、渾身の“狂詩曲(ラプソディ)” として立ち上げる。
かつてはどのような音が流れていたのだろうか――本特集では串田が携わった5度の『The Playboy of the Western World』を紹介する。
アンダーグラウンドからオンへ。初めての『プレイボーイ』
1975

串田:この頃は、1966年に立ち上げた劇団『自由劇場』のメンバーが、テント公演に専念したり、映像出演に励んだり、歌手を目指す人がいたりと、それぞれが各方面へ去っていった時期。僕ひとりが劇団と地下劇場に残ったけれど、やがて吉田日出子さんも戻ってきた。
そこで新しい人たちを集めようと、別の劇団をやってきた人たちにも声をかけてチームをつくり、上演をしました。団体名も『オンシアター自由劇場』に改名しましたね。アンダーグラウンドからオンへ。スタイルの異なる劇団に所属する人たちが一緒になって創るのは大変(笑)。でも皆んなでおもしろく取り組んで。結構画期的だったね。六本木に拠点の自前の劇場、自由劇場があったからできたことだと思います。
田槇道子さんがこの戯曲を選んで構成・演出をしてくれて、僕はペギーンのいいなずけ・ショーンを演じました。これがおもしろかったんで、それから2年後に、僕もこの作品を演出して上演を行いました。
オンシアター自由劇場5月公演
『プレイボーイ』
日程:1975年5月1日~20日
会場:六本木・自由劇場
構成・演出:田槇道子
音楽:小室等
振付:竹邑類
音響:市來邦比古
出演:吉田日出子 串田和美 萩原光男 柄本明
『プレイボーイ』から『西に黄色のラプソディー』へ
1977

串田:この時に初めて脚色・演出を行いました。ちなみに出演者の1番目・藤川延也も、僕の名前です(笑)。演出もするから、役者の名前は変えようかなと思ったんです。当時、僕の親父の友達に演劇評論家がいて、その人が名付けてくれました。昔の歌舞伎役者の名前を参照したと聞いたかな。
この頃、AAG(麻布アクターズジム)という演劇学校をつくって、20人くらいの研究生を育てていました。この公演にはAAGの研究生も出演しています。
1975年に田槇さんが演出してくれた公演からずいぶん内容を変えたので、公演タイトルも『プレイボーイ』から『西に黄色のラプソディー』と新たにしました。
チラシの色もずいぶん変わったね、左上にいるのはシング(作家)の顔写真じゃないかな。イラストはアイルランドの風景を想像したのかな。
僕がクリストファ、吉田日出子がペギーンを演じました。
『西に黄色のラプソディー』
日程:1977年2月25日~3月10日
会場:六本木・自由劇場
潤色・演出:串田和美
出演:串田和美 吉田日出子 笹野高史 大森博史 真那胡敬二
「しょっちゅう上演したくなるんだな。」――裏切りも興味深いラプソディー
1981

串田:3回目はそれから4年後、1981年だね。この作品がすごく好きで、しょっちゅう上演したくなるんだな。
作品に登場するアイルランドの人たちは、貧しいながらも、想像力でたのしく生きている。空想で物語をつくってしまったりね。でも、ただ“あたたかいお話”というのではなくて、ちょっとした裏切りもあるようなところがおもしろい。今でもそう思う。
このときも、AAG(麻布アクターズジム)に通っていた人たちが多く出演しています。新しい人たちに中心となって出てもらうようにして、小日向文世がクリストファ、余貴美子がペギーンを演じました。
『西に黄色のラプソディー』
1981年2月11日~3月2日
会場:六本木・自由劇場
潤色・演出:串田和美
音楽:越部信義
舞台監督:大谷亮介
出演:二瓶鮫一 真那胡敬二 小日向文世 余貴美子


「六本木」から「松本」へ。まつもとの人たちと創る『西の国の人気者』
2009
串田:4回目は、3回目(1981年)からだいぶ期間が空いたね。当時まつもと市民芸術館で芸術監督を務めていました。
2007年に、当時日芸(日本大学芸術学部)で教えていた生徒たちを松本に呼び寄せて、地元の人たちと一緒にTCアルプ(シアターカンパニーアルプ)という劇団をつくったんだけれど、彼らと東京の役者と交えて上演をしました。演出もだいぶ変えたので、作品名も『西の国の人気者』と新たにしました。
『西の国の人気者』
日程:2009年10月7日~11日
会場:まつもと市民芸術館
演出・潤色・美術:串田和美
フェスティバルへラインアップ、串田十二夜の初舞台
2021

串田:芸術監督としての仕事も終わりに差しかかった頃「FESTA松本」という“演劇的”フェスティバルを開催して、そのラインアップのひとつとして、この作品を上演しました(編集注:串田は総合ディレクターを務めた)。
演劇、ダンス、音楽などいろいろな作品を披露するなかで、初演出の作品は大変だな…という思いもあって、この作品を選びました。このときは(串田)十二夜の初舞台でしたね。今回と同じ役のクリスティを演じてもらいました。大抜擢です。僕は初めて老マフォンを演じました。
『西の人気者』
日程:2021年10月8日~11日
会場:上土劇場
潤色・演出:串田和美
出演:串田十二夜ほか
★チケット発売中!『西に黄色のラプソディ』
2025年10月20日(月)~10月27日(月) 吉祥寺シアター

前回(2021年)の上演から4年経つんだね。僕が老マフォン、十二夜がクリスティ、前回と同じ役を演じます。
今回はこれまでの演出から一番変化すると思います。
1977年、81年の『西に黄色のラプソディー』と同じタイトルのようで、実は今回は『西に黄色のラプソディ』。「のばし棒(ー)」がないんですよね…。
使用する劇場(吉祥寺シアター)や、ともに出演する俳優にあわせた演出なのはもちろんのこと、今回は実態があやふや、ノスタルジックな雰囲気となりそうです。夢だったり記憶の匂いがする、そんなお芝居がつくれないかなぁと。ぜひ、お見逃しなく!
※アーカイブ画像・舞台写真は無断転載不可
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